化学反応創成研究拠点(ICReDD)とは

拠点長メッセージ

前田 理 拠点長

化学反応は人類を豊かにする鍵です。その証拠に人類は、様々な化学反応の発見を積み重ねその生活を豊かにしてきました。最近では、2010年のノーベル化学賞の対象となったクロスカップリング反応が有名ですが、この反応は医薬品の約20%に使用されるほど広範囲への適用が可能です。また、クロスカップリング反応はほぼ全ての液晶や有機EL材料に使用されています。これらは、この反応が年間約60兆円規模の産業に関わっていることを意味します。このように、一つの革新的化学反応を開発することの意義は絶大であり、人類文明のあり方をも左右するのです。

しかしその一方で、人類は今でも新しい反応の開発を実験的なトライアンドエラーに頼っており、真に革新的な一つの化学反応を発見するまでには数十年単位の時間を要しています。このようなトライアンドエラーに立脚した反応開発では、エネルギーや資源の枯渇、汚染といった、大きな課題の解決には時間が足りません。そのため、これを解決する新しい科学の確立が必要となります。

私たちが確立しようとしている「化学反応創成学」では、まず、私が開発した一般的な反応経路自動探索法である「人工力誘起反応(AFIR)法」により、化学反応経路ネットワークを算出します。その後、情報科学によって、実験的に検討する意味のある情報を抽出して実験条件を絞り込みますが、これらのステップを踏むことで実験科学者による「決め打ち」的な実験が可能となり、これまで膨大な量の試行錯誤を強いられてきた化学反応の開発速度を大幅に向上させます。さらに実験科学のデータを、情報科学を通じて計算科学へとフィードバックすることにより、三つの分野が一体となって化学反応の設計手法を向上、洗練させることが可能です。

ICReDDでは、「Revolutionize Chemical Reaction Design and Discovery」をスローガンに、計算科学・情報科学・実験科学の融合によって反応開発の進め方を一新し、現在および将来の人類的課題を解決します。また私たちは、世界中に開かれた拠点を形成し、その効果を全世界へ波及させることにより、豊かな未来社会の創造に貢献します。

概要

化学反応創成研究拠点(ICReDD)

化学反応創成研究拠点(ICReDD/アイクレッド)では、計算科学、情報科学、実験科学の3分野を融合させることにより、新しい化学反応の深い理解と効率的な開発を目指しています。

化学反応創成研究拠点(ICReDD/アイクレッド)では、化学反応の設計と開発を行っています。異なる分野の研究者がそれぞれの強みを活かして分野融合型の研究を行い、化学反応を自在に設計することを目標としています。

化学反応は自然界のあらゆるところに存在しています。そのため化学反応の制御は、人類を豊かにする根幹をなす技術となります。ICReDDでは、化学反応の発見や設計を単なる偶然や科学者の経験に基づいた直感に頼るのではなく、計算科学による予測に基づいて化学反応を意図的に制御することを目指します。

また、計算科学、情報科学、実験科学を駆使し、化学反応が必要とされるあらゆる分野において新しい技術と材料を開発し、それらを活用することに取り組んでいます。
ICReDD所属の研究者が行っている革新的な研究の詳細については、「メンバー」ページをご覧ください。また、「研究紹介」ページに拠点において推進している研究の概要を公開していますので、そちらもあわせてご覧ください。

ICReDD における研究

化学反応を意図的に設計・制御するには、分野横断的なコラボレーションが必要不可欠であることからICReDDは設立されました。化学反応開発において飛躍的な進歩を遂げるためには、計算科学、情報科学、そして最新の実験科学を組み合わせた最先端の反応開発に取り組むことが重要です。これらは別々の分野としてではなく、一つの融合研究領域を新たに形成します。

ICReDDの研究者は個別に研究するのではなく、博士研究員から主任研究者まで、様々なレベルの研究者がミックスラボとよばれる共同ラボに集まって研究を進めます。そうすることで、各研究者の専門知識が他の研究者の研究のブレイクスルーにつながり研究を加速します。

WPI について

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は文部科学省の事業として2007年に開始されました。第一線の研究者が世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る、「世界から目に見える研究拠点」の形成を目指しています。

ICReDDはWPIの新たな研究拠点として2018年10月に北海道大学に設立されました。世界中の大学や企業と技術を共有し、WPIが掲げる理想のもと、国際社会に貢献します。

WPI拠点の4つのミッション:

  • 世界最高水準の研究
  • 融合領域の創出
  • 国際的な研究環境の実現.
  • 組織の改革

ICReDD棟

2023年2月新設のICReDD棟は、ICReDDの研究活動そのものをプランにしたユニークなデザインと、ローコストな汎用技術のみで省エネを実現した研究施設です。
詳細はこちら

ギャラリー

化学反応の自在開発を目指して:化学反応創成研究拠点(ICReDD)とは

ICReDD ラボツアー

ICReDD棟 紹介ビデオ

ICReDD棟
フュージョン リサーチ オフィス
ICReDDホール

>> 他の 写真 も見る

体制/組織

国際支援ホスピタリティシステム

ICReDD研究者の3分の1以上は日本国外の出身であり、コミュニケーションは英語で行われています。このようにICReDDでは国際的な環境のもとで研究が進められています。

外国人研究者が日本で安心して生活できるよう、役所での各種手続きなどを含め、様々な支援体制を整えています。また北海道大学では、無料の日本語クラスや、日本で研究する上で役立つセミナー(日本のビジネスマナー、日本人に向けたプレゼンテーションの仕方など)などを提供しています。

詳細

研究支援 

研究環境の充実を図るため、外部から採用された教員に対する研究資金の支援や融合研究促進のため、重点的に推進すべき研究課題に対し研究資金の支援を行っています。また、外部資金獲得のため申請指導を行い、新任研究者が在職期間中に優れた成果を上げ、他の国際的な研究機関での教員やポスドクの有力候補となるように支援しています。

新任教員スタートアップ支援

融合研究スタートアップ支援

MANABIYA

「MANABIYA(学び舎)システム」とは、世界スケールの高度人材育成の戦略的仕組みかつ国際的な研究者ネットワークを形成する基盤となるものです。このシステムは、計算科学、情報科学、実験科学の3つの分野に精通した新世代の研究者を育成し、これら3分野の融合により新たな化学反応の合理的かつ効率的な開発を可能にする新学術融合領域「化学反応創成学(CReDD)」を世界的に広め活用するために構築されました。

MANABIYAシステムは2つの部門で構成されており、MANABIYA学術部門では、国内外の大学・研究機関の若手研究者や大学院生が2週間から3ヶ月間、ICReDDに滞在し、新しい化学反応を開発するための手法を習得します。また、MANABIYA産業部門では、ICReDDの研究者と国内外の企業研究者との間で、コンサルティング、共同研究、コンソーシアムなどの形で連携を推進します。

どちらの部門においても、共に新たな研究シーズを発掘し、共同研究を進めていきます。これにより、MANABIYAシステムを通じて新しい化学反応開発の手法を習得したMANABIYA研究者が、国内外を問わずICReDDの手法を使い広めていくことになり、彼らを通じて化学反応創成学がさらに発展していくことが期待されます。

詳細

組織

ICReDDでは拠点長・前田理のもと、前田が開発した人工力誘起反応(AFIR)法を基幹技術として研究を進めています。ICReDDの研究部門では、主任研究者を中心として11の国内研究グループと3つの海外研究グループが分野横断的な研究を行っています。

事務部門では、管理企画ユニットと研究戦略ユニットが、研究者が快適に研究できる環境を常に提供するなど、スムーズな研究支援を行っています。

ダウンロードコンテンツ

年次報告書

拠点概要パンフレット
日本語版

クオータリーニュースポスター
「カタリスト」
研究者向け冊子

立体周期表ペーパークラフト「Periodic Pen Stand」