研究

広く応用可能なインディゴフォトスイッチへの新たな道すじ ~実験計算情報科学の融合的アプローチ

光照射下で可逆的な構造変化を起こすフォトスイッチ分子は、過去数十年、光応答性システムの重要な構成要素として注目されてきました。生物医学および材料科学の分野の用途では、光の損傷を引き起こしにくく、生体組織に浸透する能力が優れている長波長光、特に赤色光や近赤外光で光異性化プロセスを引き起こすことが強く望まれます。そのため、歴史的に最も豊富に利用されてきた染料の一つであるインディゴ(藍)が注目を集めています。インディゴのユニークな構造は、赤色領域の光の吸収(そのため青く見える)のため、赤色光応答性フォトスイッチを構築するための理想的な候補分子となります。

本研究では、銅触媒によるインディゴのN-アリール化反応を開発し、効率的に赤色光フォトスイッチ分子に変換しました。  インディゴの N-アリール置換基は、赤色光応答性を犠牲にすることなく、スイッチ状態の熱安定性 (熱半減期) を制御する重要な置換基です。今回、合成的に有用な官能基を含むインディゴ N-アリール基の導入を初めて達成し、実際の応用に向けた重要な一歩を踏み出しました。  モノ-N-アリール化の高い選択性は計算によって、最も困難なステップのエネルギー障壁を下げる鍵となるビス-銅-インディゴ中間体が提案されました。さらに、N-アリール基の表現*1、DFT特徴量化*2、および多変量線形回帰*3を含むデータ科学プロセス(データサイエンス ワークフロー)を通じて、これらのインディゴフォトスイッチの熱半減期と構造の相関をモデル化できました。このモデルは、フォトスイッチの将来の合理的な設計に役立つと期待されています。実験的、計算的、およびデータ科学的アプローチを組み合わせた本研究は、広く応用可能なインディゴフォトスイッチへとつながる道において重要なランドマークとなります。

 

  • *1  表現:元となる分子の複雑な形から、シンプルかつ重要な構造成分を抽出する方法

  • *2 特徴量化:粗い形式のデータを、モデル構築のための定量可能なパラメータに変換するプロセス。

  • *3多変量線形回帰:線形回帰とは、既存のデータ(説明変数)に基づいて、連続的な結果(結果変数)を相関させたり、予測したりするツール。説明変数が複数ある場合を多変量線形回帰と呼ぶ。