研究

歪んだ小分子からジホスフィン配位子を化学合成する新手法を開発

ジホスフィン配位子に代表される1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン (DPPE) はキレート型二座配位子として様々な遷移金属と錯形成をして触媒機能や発光機能を発現する一方、剛直な直線もしくは折れ曲がり構造を有するジホスフィン配位子は超分子の骨格を構築する重要な化合物群です。加えて、左右のリン原子上にそれぞれ異なる置換基を有する非対称ジホスフィン配位子は、置換基の選定により金属錯体の電子的、および立体的性質を精密に制御することが可能であり、新たな高活性な金属触媒や高機能を有する超分子の創出が期待できます。

今回、美多らの研究グループは、歪んだ小員環化合物であるビシクロ[1.1.0]ブタン、および[n.1.1]プロペランのラジカルジホスフィン化により誘導される対称、および非対称リン配位子の簡便合成法を確立させ、新しい遷移金属錯体や配位高分子の合成に繋げました。特に、ビシクロ[1.1.0]ブタンから誘導されるシクロブタン骨格を有するジホスフィン錯体は、ニッケルに二座で配位することを明らかにし、[3.1.1]プロペランから合成したジホスフィンジオキシド配位子は、折れ曲がり構造を有する配位高分子へと誘導することができました。

この反応を開発するにあたり、最初のホスホリルラジカルのラジカル付加の活性化エネルギーを、AFIR法を用いた量子化学計算により効率的に求め、反応開発を促進させました。原料の安定性を考慮して、黄色でハイライトした化合物を実験的に検討し、対応するジホスフィン配位子を合成することができました。

a) AFIR法を用いたホスホリルラジカルと小員環化合物の反応性の予測 b) 三成分反応による対称、および非対称リン配位子の簡便合成法(上図)と得られた生成物の応用研究(下図)

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詳細は、Chandu G. Krishnan、髙野秀明、勝山瞳、神名航、林裕樹、美多剛らによる論文(DOI: 10.1021/jacsau.4c00347)に掲載されています。