研究

固体状態で進行するクロスカップリング反応を開発有機溶媒の使用による廃棄物,コスト,毒性や安全性の解決へ

ポイント

  • 有害な有機溶媒を用いずに,固体状態で効率よく進行するクロスカップリング反応の開発に成功。
  • アルケンを添加剤とすることで触媒の凝集による失活を抑制し,溶液系に匹敵する高効率を実現。
  • 有機溶媒由来の廃棄物や毒性,安全性を懸念する必要がなく,化学工業への展開に期待。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),同大学院工学研究院の伊藤 肇教授,久保田浩司特任助教らの研究グループは,有機溶媒を用いずに固体状態で進行するパラジウム(Pd)触媒クロスカップリング反応*1を開発しました。

従来のパラジウム触媒によるクロスカップリング反応には,有機溶媒が用いられています。しかし工業利用のような大規模な化学合成では,有機溶媒の使用による大量の廃棄物,コスト,毒性や安全性への懸念が問題となっています。また,有機溶媒に溶けにくい反応基質(反応の元となる物質)の場合は,反応そのものが困難となる場合も多くあります。

本研究では,固体の反応混合物にアルケンと呼ばれる有機化合物を少量添加したのちに機械的に攪拌かくはんすることで,パラジウム触媒同士が互いに集まること(凝集)による触媒機能の低下(失活)を抑制しつつ,カップリング反応が高効率で進行することを発見しました。これにより,有機溶媒由来の大量廃棄物,コスト,毒性や安全性を懸念することなく,クロスカップリング反応が可能になりました。今後,安全で利便性の高い環境調和型クロスカップリング反応として,化学製品,医薬品,機能性有機材料などの工業的製造への展開が期待されます。

なお,本研究成果は,英国時間 2019 年1月10日(木)公開の Nature Communications 誌に掲載されました。

本研究は,文部科学省科学研究費補助金「基盤研究 A」(18H03907),「新学術領域研究(ソフトクリスタル 高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能)」(17H06370),「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の支援のもとで行われたものです。