研究

直感的な材料設計を可能にするひも状分子

概要

ICReDDの研究グループは、従来のポリマーよりも容易かつ確実に化学修飾できる新しいポリマーおよびその変換反応を開発しました。今回開発したポリマー合成はポリケトンという化合物群に分類されるものです。既存のポリケトン化合物は優れた機械的強度や耐熱性を持つエンジニアリングプラスチックとして摩耗しやすい部位や貯蔵システムの一部として使われています。ICReDDの主任研究者である猪熊泰英准教授を中心とする研究グループは、独自のデザインで合成したポリケトンに対し簡便な2段階の化学修飾反応を施すことで様々な色を示し電気伝導性も期待できる材料を作り出しました。この化学修飾反応は、分離が困難な副生成物を生成せず高効率で進行するため、幅広い応用が期待できます。

背景

ポリマーのように大きな分子は多くの場合、単純な構成単位を繋ぎ合わせることで合成されます。ポリケトンもそのように合成されるポリマーで、構成単位にカルボニル基と呼ばれる官能基を持つことが特徴です。ポリケトンは一般に高強度で薬熱性に優れており、自動車、電子機器、移動機械部品など、様々な場面で用いられています。さらに、ポリケトンのカルボニル基は多様な官能基に変換が可能なため、応用用途が非常に高い材料です。しかしながら、ポリケトンの変換反応は効率的に行えない場合が多く、副生成物も多く生み出してしまいます。その結果、生成物の組成や構造の緻密な制御が難しく、ポリケトンからなる材料の機能が低下することに繋がってしまいます。
猪熊グループは、前述の困難を克服し、化学的に精密な修飾反応ができるポリケトンおよびその修飾方法を開発しました。発表した論文では、高い化学、位置および立体選択性を持ってポリケトンをπ共役を持つ有機色素に変換することが可能であることを実証しています。π共役とは、材料に色をつけたり導電性をもたせたりするために欠かせないものです。今回の変換反応では、π共役を持たないポリケトンにπ共役を導入したことで、様々な機能を付与することができました。得られた材料の詳細な分析からは、副生成物がほとんど混入していない事も示され、開発した変換反応の信頼性の高さが示されました。

今後のへの期待

合成化学者の興味をそそるのは、上述したようなポリケトンの扱いやすさです。猪熊准教授は、このポリケトン鎖を「魔法のロープ」に例えています。それは、ポリケトンが研究者や技術者が自由に新しい分子を設計できるようにしうるもので、柔軟かつ成形性が高く、多数の材料開発に応用が可能だからです。猪熊准教授は、「高分子科学者は、このポリケトン鎖のモチーフに大きな興味を持っています。我々の研究グループは現在、この魔法のロープのさらなる可能性を探求するために、ICReDD内外の研究者と協力しています。私たちのモットーは、「理解しやすくする」ことであり、これからも新しい反応や素材の開発を容易かつ直感的なものにしたいと考えています。」と語っています。

原文

Manabe Y., Uesaka M., Yoneda T., Inokuma Y.: Two-Step Transformation of Aliphatic Polyketones into π-Conjugated Polyimines. The Journal of Organic Chemistry, June 25, 2019. [https://doi.org/10.1021/acs.joc.9b01119]

資金情報

本研究は、文部科学省科学研究費補助金「若手研究(A)」 (No. 17H04872)、 「旭硝子財団」、 「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の支援のもとで行われたものです。

研究に関する問合わせ先

猪熊 泰英准教授
[https://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/lor/HP/member/inokuma_e.html]
化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)
北海道大学
Email: inokuma[at]eng.hokudai.ac.jp

本研究は Cover Pictureに選ばれました。

柔軟なひも分子(ポリケトン)を帯締め、色の付いた共役分子を着物の帯に見立てて、その変換反応を示した写真です。
本論文の発表者
猪熊泰英准教授(後列右から2番目)、共著者の眞部夢大(前列右)、上坂光晴(前列左から2番目)、米田友貴助教(後列右)