研究

選択的脱フッ素水素化反応における水素原子移動試薬としてのN-ヘテロ環状カルベンボラン機構解明

ポイント

  • 選択的モノ脱フッ素水素化反応
  • 反応経路の機構解明
  • ボランの構造と反応性の関連性を解明

 

概要

フッ素は、水素と同等の原子サイズでありながら全元素中最大の電気陰性度を有するため、フッ素を含んだ有機化合物の炭素—フッ素(C‒F)結合が強くなります。この効果により有機化合物にフッ素を導入すると、撥水性、脂溶性、体内での代謝安定性が向上し、医薬品から材料科学まで幅広い用途を持つ機能性分子において重要な役割を果たしています。中でもトリフルオロメチル基(CF3)は、他に比べて有機化合物への導入が容易であるため、広く利用されているモチーフです。近年、CF3基同様、ジフルオロメチレン(CF2)基も導入方法が拡大し、新規な生物活性化合物のための汎用性の高い構成要素として関心が高まっています。CF2基を導入する戦略の一つに、入手容易なCF3基の選択的脱フッ素化があります。しかし、この方法は、高いC‒F結合の強さによる反応の難しさと、過剰脱フッ素化のリスクがあります。このリスクを回避するために、光化学的または電気化学的活性化といった方法がよく取られます。一例として、脱フッ素水素化反応を介してCF3基からジフルオロメチル(CF2H)基を調製するというものがあります。

本研究では、トリフルオロメチルアレーン(ArCF3)の選択的脱フッ素水素化反応を、N-ヘテロ環状カルベンボラン(NHC‒BH3)を水素原子移動(Hydrogen Atom Transfer(HAT))試薬として用い、選択的脱フッ素水素化反応に関する機構解明を行いました。最近報告された光触媒を青色LED照射下で励起させると、ArCF3が選択的に還元され、ArCF2•ラジカル種が生成されます。続くNHC‒BH3と、このラジカル中間体の間で起こるHAT反応によって、ジフロロメチルアレーン(ArCF2H)が得られました。詳細な実験と計算科学的検証により、可能性のある他の反応経路を否定し、研究グループが提案したこの反応経路を支持する結果を得ました。今回、計算とデータ科学のアプローチにより、入手容易な分子記述子でモデル化し選択したNHC-BH3種の反応性の違いを解明しました。研究グループによる合成法は、アミノ酸や炭水化物のような魅力的なモチーフを含むArCF3に適用可能であり、その結果、新たなCF2H含有化合物へのアクセスが可能となりました。本研究は、CF3基の脱フッ素水素化反応に関連するボリルラジカル化学の詳細な反応機構を提供するものです。

 

本研究成果は2024年11月13日(水)、ACS Catalisis誌にオンライン掲載されました。
DOI: 10.1021/acscatal.4c05092