ポイント
- 写真データと画像機械学習システムからペロブスカイト酸水素化物のヒドリド含有量を非破壊かつ迅速に高精度で予測可能。
- 画像機械学習モデルのスクリーニング検討の結果、従来の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と同様の予測精度を有するExtraTrees回帰モデルの採用により大幅な情報処理コストの削減に成功。
- 酸水素化物の加熱反応モニタリングとその解析結果に基づいたヒドリド含有量制御を達成しており、不均一な試料画像においても高精度で予測が可能
概要
北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の猪熊泰英教授、瀧川一学特任教授、井手雄紀特任助教、京都大学大学院工学研究科の陰山洋教授らの研究グループは、写真を活用した効率的な機械学習システムの開発、加熱反応モニタリングによりペロブスカイト酸水素化物に含まれるヒドリド含有量の制御および高精度予測を達成しました。
酸素アニオン(O2–)の一部がヒドリドイオン(H–)で置換されたペロブスカイト酸水素化物(BaTiO3-xHx)におけるヒドリド含有量は、様々な触媒作用を持つ機能性材料としてその特性を決定する重要なパラメータとして知られています。しかしながら、ヒドリド量が精密に制御された酸水素化物の合成は、長時間測定や高い専門性が必要な解析手法、破壊的な分析法のような様々な要因のためにこれまで困難な課題となっていました。本研究ではBaTiO3-xHxのヒドリド含有量の迅速な評価方法として、粉末試料の写真を用いた画像機械学習システムを開発しました。
画像機械学習モデルのスクリーニング検討によりExtraTrees回帰モデルを用いた場合、平均絶対誤差(MAE)が0.013という非常に高い精度でヒドリド含有量の予測が可能でした。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)で構築した機械学習システムにおいても、ほとんど同程度の予測精度であったため計算コストに大きな有利性のあるExtraTreesを採用することで、非破壊かつ迅速なヒドリド含有量の分析手法として確立されました。
構築された画像機械学習システムを使用して、異なる加熱温度・時間に対応したBaTiO3-xHxのヒドリド含有量の詳細な分析を試みた結果、長時間の反応モニタリングに適用できることが確認されました。加えて、加熱温度と時間を制御することでBaTiO3-xHxのヒドリド含有量を0~0.4の範囲で微調整可能であることを実証しました。異なるヒドリド含有量を示すBaTiO3-xHxを任意の割合で混合した粉末試料の場合、完全に混ざりきっていない不均一な試料であっても画像機械学習システムに基づいた予測値は、混合した際の理想値と類似の値を示しました。
本研究で開発された画像機械学習システムはBaTiO3-xHxのヒドリド含有量予測を目的として設計されていますが、同様の設定を活用することで様々な混合アニオン化合物の分析に利用することも可能となります。材料分析の分野においても、画像機械学習システムは高価な測定装置や高度な解析技術を必要とせず、誰もが簡単かつ迅速に高精度な分析手法として活用できるため作業効率化のツールとして大変魅力的であり、大きな期待が寄せられています。
本研究成果は2024年10月12日(土)、ACS Applied Engineering Materials誌にオンライン掲載されました。
論文情報
Hydride Content Control of Perovskite Oxyhydride BaTiO3−xHx Supported by Image-Based Machine Learning
Taichi Sano, Yuki Ide, Tatsuya Tsumori, Hiroki Ubukata, Ichigaku Takigawa,
Hiroshi Kageyama, Yasuhide Inokuma, ACS Appl. Eng. Mater., 2024, 2, 10, 2391–2396.
(Cover Picture Selected) DOI: 10.1021/acsaenm.4c00417