地球上に豊富に存在し、安価な元素を利用する卑金属触媒は、新しい化学反応を可能にするものとして、ここ数十年で大きな注目を集めるようになりました。 特に銅は、その多彩な反応性から、フォトレドックス触媒の有力な候補として利用されています。 銅錯体は、適切な配位子と組み合わせることで、光照射下で十分な還元力を発揮し、有機基質を活性化することができます。 中でも特に興味深い基質は、医薬から材料科学に至る機能性分子に広く見られるトリフルオロメチル(CF₃)化合物です、これらを選択的にモノ脱フッ素官能基化することができれば、ケミカルスペースを拡大し、構造的にユニークで価値のある化合物を生み出すことができます。 しかし、既存の変換は主にC‒FからC‒H、またはC‒Cへの変換に限られており、C‒ヘテロ原子結合の形成はほとんど未解明でした。
本研究では、銅のフォトレドックス触媒反応によって、トリフルオロメチルアレーン(ArCF₃)とアルコール間の脱フッ素C‒Oカップリングを行いました。この方法は、入手容易なトリフルオロメチルアレーンとアルコールから、ジフルオロベンジルエーテル(ArCF₂OR)を合成するための直接的かつ収束的なアプローチを提供します。 特筆すべきは、本手法を用いて液晶挙動を示す分子の合成に成功したことです。 さらに、反応条件をわずかに変更することで、広い分野に応用可能性がある重要な化合物であるジフルオロベンジルヨード(ArCF₂I)を選択的に生成することができました。
本手法の反応機構を検証したところ、二重触媒サイクルからなる機構が支持されました。まず C‒F活性化サイクルでは、2つのビスホスフィンが配位したホモレプティック銅錯体が光触媒として働き、ArCF₃を活性化し、鍵となるArCF₂• ラジカルを生成します。 このラジカルは次に、単一のビスホスフィン配位子を持つ別の銅種を介したC‒Oカップリングサイクルに関与し、最終的にエーテル生成物を形成するというものです。 結論として、本研究によりフォトレドックス触媒とクロスカップリング触媒の両方の役割を果たすユニークな単一の銅触媒系を介した、新たなフッ素化合物の合成が実証されました。