研究

簡便に発光ポリマーを調製する方法を開発

簡便に発光ポリマーを調製する方法を開発

~機械的な刺激によってポリマー材料に発光機能を付与する新手法~

ポイント

  • ポリスチレンやポリエチレンなどの様々な汎用ポリマーに発光特性を与える方法の開発に成功。
  • ボールミルによる機械的刺激によってポリマー主鎖の結合を切断し,そこに発光性分子を導入。
  • 複雑な有機合成的手法を用いずに,簡便に機能性ポリマーを調製することが可能。

概要
伊藤 肇教授,久保田浩司准教授, ジン・ミング特任助教らの研究グループは,機械的刺激によってポリスチレンなどの汎用ポリマー材料に発光機能を付与する新しい方法を開発しました。発光機能などをもつ機能性ポリマー材料は,現代社会に幅広く利用されています。しかし,それらの調製には多段階の合成ステップがしばしば必要となるため,複雑な有機合成反応に頼らない,より簡便な合成法の開発が望まれていました。本研究では,ポリスチレンやポリエチレンといった汎用ポリマー材料に直接的に発光機能を付与する方法を開発しました。これにより,複雑な多段階の化学合成を必要とせずに,様々な種類の発光ポリマーを簡便に作成することが可能となりました。

【背景】
発光機能などをもつ機能性ポリマーは,現代社会の豊かで便利な生活を支える重要な材料です。しかしながら,それらの調製には多段階の合成ステップがしばしば必要となり,複雑な有機合成反応に頼らない,より簡便な合成法の開発が望まれています。ポリマーをボールミル中で粉砕すると,メカノラジカル*1が発生することが古くから知られています(図1)。また,ラジカル種と反応することで初めて強い蛍光を示す「ターンオン型」蛍光ラジカル反応剤*2が知られています(図2)。そこで本研究では,ポリマーと蛍光ラジカル反応剤を同時にボールミル*3で攪拌することで,ポリマーに発生したメカノラジカルとラジカルプローブが反応させ,ポリマー主鎖に蛍光分子を導入する検討を行いました。

図1 ポリマーをボールミルすると,ポリマー主鎖を構成する共有結合が均等開裂し,メカノラジカルが生じる。

図2 本研究で用いたターンオン型蛍光ラジカル反応剤

【研究手法】
ポリマーと蛍光ラジカル反応剤をステンレス製ボールとともにステンレス製ボールミルジャーに入れ,30Hzで30分間振とうさせることにより,発光ポリマーの作成を検討しました。反応には,Retsch社製ボールミル,MM400を使用しました。

【研究成果】
研究グループは,ポリスチレンとターンオン型蛍光ラジカル反応剤をボールミル中で攪拌すると,青く発光するポリマーが得られることを見出しました(図3)。種々の光学測定,GPC測定やNMR測定などにより,蛍光分子がポリマー主鎖に導入されていることを確かめました。この方法はポリメチルメタクリレート,ポリエチレン,ポリフェニレンスルフィドやポリスルホンなどにも適用でき,対応する発光ポリマーを簡便に調製することに成功しました(図4)。

図3.ポリスチレンと蛍光ラジカル反応剤をボールミルすると,発光ポリマーが得られることを見出した。

図4.本手法を用いて,様々な汎用ポリマーに発光機能を付与することに成功。

【今後への期待】
本成果により,複雑な有機合成化学的手法を用いずに,簡便に発光ポリマーを調製することが可能となりました。本技術を発展させることで,発光性に限らず様々な機能を汎用ポリマーに付与できる可能性があります。また,機械的刺激に応答性を示すポリマー材料やセンサー材料の開発への応用も期待できます。

論文情報
論文名 Introduction of a Luminophore into Generic Polymers via Mechanoradical Coupling with a Prefluorescent Reagent(ターンオン型蛍光試薬を用いたメカノラジカルカップリングによる汎用ポリマーへの発光団の導入)
著者名 久保田浩司1,2, 豊島直喜1, 三浦大洋1, Julong Jiang 2,3, 前田 理2,3, Jin Mingoo1,2, 伊藤 肇1,21北海道大学大学院工学研究院,2北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),3北海道大学大学院理学研究院)
雑誌名 Angewandte Chemie International Edition
DOI 10.1002/anie.202105381