研究

ダブルネットワークハイドロゲル分子レベル損傷を発光でリアルタイム観察できる方法を開発

ダブルネットワークハイドロゲルの分子レベルの損傷の可視化

ICReDDのグン・チェンピン教授、伊藤肇教授、前田理教授とジン・ミング准教授は共同研究で、ダブルネットワーク(DN)ハイドロゲルの分子レベルの損傷を裸眼でリアルタイムに観察できる方法を開発しました。この方法では、前蛍光プローブ分子の溶液中にハイドロゲルを浸したのち、水中に入れることで、DNハイドロゲルの中に蛍光プローブ分子を加えました。プローブ分子がゲルの中に入っていてもDNハイドロゲル本来の力学特性は変わりませんでした。この前蛍光プローブ分子が含有されたDNハイドロゲルを伸ばすと、ナノスケールでの損傷が誘発され、その損傷された部分のみプローブの蛍光が強くなります。この技術は、材料のマクロスケールの破損の原因となり得る分子レベルの損傷を監視するのを可能とするため、産業および研究室における材料評価に役立つことが期待されています。

DNゲルは、比較的硬いポリマーのネットワークに対して柔らかなポリマーが絡み合ったネットワーク構造を持ちます。ラジカルを有する前蛍光プローブ分子の溶液にDNゲルを浸させ、ゲル中にプローブ分子を加えました。この前蛍光プローブ分子が含有されたDNゲルを伸ばすと、ゲル中のポリマーの結合が切れ、メカノラジカルが生成されます。このメカノラジカルは、空気中の酸素と敏感に反応するため、一般的な環境ではメカノラジカルを観測することは困難です。しかし、本研究では、メカノラジカルと前蛍光プロブ分子のラジカルが反応することにより蛍光が強くなることで、ゲル中で発生したメカノラジカルを可視化することに成功しました。また、このメカノラジカルは短い寿命を持っているため、プロブと直接反応することだけではなく、酸素を介したラジカル転移プロセスが起こることが計算化学により示唆され、メカノラジカルがその周辺のポリマーにもラジカルを発生させ、そのラジカルがプローブ分子と反応して蛍光を強くすることが予想されました。酸素がある環境と脱酸素環境で比較し、酸素がある環境でのDNハイドロゲルの蛍光が、脱酸素環境と比較し増加することを観察し、計算化学で示唆された酸素の役割を実験的にも確認しました。

今回開発した技術は、ゲル材料のネットワーク構造を大幅に変えずに損傷された部位を発光特性により分子レベルで解析することができますので、今後幅広いゲル材料における機械的損傷を評価する新しい手法として用いられると期待されます。

(Zheng et al. Journal of the American Chemical Society 2023)