研究

MANABIYA成果 プレスリリース 特徴的な異性化機構を示す光分子スイッチ開発に成功酸素原子を他の元素に置換することにより望む性質が引き出される

MANABIYAシステムは他研究機関、他大学、企業の研究者が短期間ICReDDに滞在して、研修と共同研究を行うプログラムです。以下の論文には、勝山彬先生がMANABIYAシステムに参加したことにより実現できた成果が含まれています。勝山先生は2021年、2023年に2回ほどMANABIYAに参加され、ICReDDの前田理教授の下で合計二ヶ月以上研究に従事し、人工力誘起反応(AFIR)法と完全活性空間SCF(self consistent field)法を学びました。勝山先生は北海道大学大学院薬学研究院の助教です。

以下は北海道大学のプレスリリースからの引用です。

ポイント

・複数の化学結合が同時に回転する光分子スイッチの開発に成功。
・アミドの酸素原子を他のカルコゲン元素に置き換える戦略を採用。
・熱的条件と光照射条件それぞれで異なる異性化が進行することを解明。

研究概要

北海道大学大学院薬学研究院及び国際連携研究教育局バイオサーフィス創薬グローバルステーション(以下、GI-CoRE GSD)の市川 聡教授、勝山 彬助教、同大学大学院先端生命科学研究院の門出健次教授、谷口 透准教授、同大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)及び同大学大学院理学研究院の前田 理教授、原渕 祐特任准教授らの研究グループは、光照射によって炭素-炭素結合と炭素-窒素結合の両方が同時に回転するという、独特の異性化機構を示すチオアミド分子の創生に成功しました。

光分子スイッチは、光の照射により特定の化学結合が異性化し、その性質が変化する分子群で、調光レンズのような機能性分子や薬効の制御など、様々な分野での応用が期待されています。人工の光分子スイッチは、一つの化学結合が異性化するものがほとんどですが、生物の視覚を司る光受容体であるロドプシン中では、光刺激により複数の化学結合が同時に回転するという特徴的な異性化機構の存在が知られています。このような光分子スイッチは、剛直な炭素骨格から構築された数例の骨格を持つものの報告にとどまり、構造改変による応用が困難でした。

本研究では、ベンゼン環の2箇所のオルト位に置換基を有するベンズアミドに着目しました。ベンズアミド構造は、合成に用いるアミンと安息香酸の構造を変更することで、容易に構造を改変できます。この分子は炭素-炭素結合と炭素-窒素結合という二つの回転障壁が比較的高い結合を有しますが、このうち炭素-窒素結合の回転障壁は室温での回転を抑制するには不十分であるうえ、比較的長波長の紫外線や可視光での異性化が起こらないため、光分子スイッチへそのまま応用することは困難です。そこで、アミド結合の酸素原子を硫黄原子やセレン原子に置き換える「カルコゲン元素置換」戦略により、この炭素-窒素結合の回転を抑制し、光感受性を付与することに成功しました。そして、このチオアミドに対して導入した二つの異なるオルト位置換基をトレーサーとして、光照射下において炭素-炭素結合と炭素-窒素結合の両方が同時に回転することを証明しました。また、このチオアミド分子は、熱的条件では炭素-窒素結合のみが回転するため、光照射下と加熱条件で、異なる異性化モードを示すことが分かりました。本研究では、光照射下で炭素-炭素結合と炭素-窒素結合の両方が同時に回転する反応機構を量子化学計算に基づいて解析し、励起状態からの無輻射失活によりこの回転が起こることを明らかにしました。本研究で開発されたチオアミド分子は、13重原子で構築されたコンパクトな構造を特徴としており、今後様々な分野での応用が期待されます。

なお、本研究成果は、2024年2月28日(水)公開のNature Chemistry誌に掲載されました。

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本研究で実施した、オルト二置換ベンズアミドに対するカルコゲン元素置換。