研究

青色LED励起を用いた赤色強発光体の開発青色LED対応した発光体の最新テクノロジー

ポイント

  • 青色LED励起を用いた赤色強発光体「新型レアアース分子」の開発に成功。
  • 発光に必要な青色光を集めるアンテナに「新型ナノカーボン構造」を採用。
  • 発光色は美しく繊細で,従来より5倍以上の発光輝度を実現。

概要

 北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),同大学院工学研究院の北川裕一特任講師,長谷川靖哉教授らの研究グループは,青色LED励起により赤色強発光を示す新型レアアース分子*1の開発に成功しました。
 青色LEDと蛍光体を組み合わせた材料は,イルミネーション,ディスプレイ,照明など現代社会においては必要不可欠となっています。今回開発した新型レアアース分子は,従来の発光体(無機蛍光体,有機EL用蛍光色素)よりも美しく繊細な赤色発光色を示すほか,300oCを超える熱耐久性を持つためLEDデバイスに搭載可能です。さらに,青色光を集めることができる新型ナノカーボン*2アンテナが導入されているため,新型レアアース分子の青色LED励起の発光輝度は,従来のものと比べて5倍以上となりました。本研究成果は,新しい原理に基づく分子性発光素子として様々な分野への応用展開が期待されます。
 なお,本研究成果は,2020年1月3日(金)公開のCommunications Chemistry誌(Nature姉妹誌)に掲載されました。
 また,本研究は,文部科学省科学研究費補助金「若手研究B」(17K14467),「新学術領域研究   (非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学)」(19H04556),「基盤研究B」(18H02041),「新学術領域研究(ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能)」(18H04497),「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の支援のもとで行われました。

新型レアアース分子の発光
発光体の利用例

【背景】
 電子産業で使用されている発光体は無機蛍光体が主流でしたが,近年では蛍光色素等の発光分子も注目されています。研究グループは,有機分子とレアアースから構成される有機・無機ハイブリッド材料「レアアース分子」の開発を行っています。この分子は他の発光体よりも発光色が美しい(色純度が高い,図1)という特徴を有しています。しかし,このレアアース分子を光らせるためには,紫外線での励起(光照射)が必要でした。

【研究手法】
 本研究では,レアアース分子に新型ナノカーボン構造を導入しました。このナノカーボンは,青色LEDの波長付近(450nm)に光吸収帯を持ち,ナノカーボン同士が相互作用することでレアアース分子の耐熱性向上が期待されます。このナノカーボン構造の導入が本研究の鍵となっています。

【研究成果】
 新型ナノカーボン構造を導入したレアアース分子は,ナノカーボンが積層した剛直な構造を有していることがX線構造解析によってわかりました。この剛直な構造をとるレアアース分子は300℃を超える高い熱耐久性を示すため,LEDデバイスへ搭載可能であることもわかりました。このナノカーボンは青色光を集光し,そのエネルギーを効率的にレアアースに受け渡すことができます。そのため,新型レアアース分子の青色LED励起の発光輝度は,従来のものと比べて5倍以上となりました(上図「新型レアアース分子の発光」)。

【今後への期待】
 計算科学・情報科学とのコラボレーション研究により,新型レアアース分子の機能をさらに高めていくとともに,産学間の連携を強めることで材料応用への実現を目指します。

論文情報

論文名 Stacked nanocarbon photosensitizer for efficient blue light excited Eu(III)
    emission(青色光励起でEu(III)を効率良く光らせるための積層したナノカーボン光
    増感剤)

著者名 北川裕一1, 4,鈴江郁哉1,中西貴之2,3,伏見公志1,関 朋宏1,4,伊藤 肇1,4, 長谷川靖
    哉1,41北海道大学大学院工学研究院,2東京理科大学基礎工学部(当時),3国立研究開
    発法人物質・材料研究機構(NIMS),4北海道大学化学反応創成研究拠点(WPI-
    ICReDD))

雑誌名 Communications Chemistry

DOI 10.1038/s42004-019-0251-z

公表日 2020年1月3日(金)(オンライン公開)

特許情報

発明の名称:希土類錯体及び発光材料
出願番号:特願2019- 501414(日本),16/488784(米国),18757934.7(欧州),
     201880013920.3(中国)
出願人:国立大学法人北海道大学
発明者:北川裕一,鈴江郁哉,中西貴之,伏見公志,長谷川靖哉

お問い合わせ先

教授 長谷川靖哉(はせがわやすちか)
TEL 011-706-7114   メール hasegaway[at]eng.hokudai.ac.jp
URL https://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/amc/
特任講師 北川裕一(きたがわゆういち)
TEL 011-706-6737   メール y-kitagawa[at]eng.hokudai.ac.jp

配信元

北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL 011-706-2610   FAX 011-706-2092   メール kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

【参考図】

図1.レアアース分子と蛍光色素の発光スペクトル。蛍光色素は様々な波長が混合した発光色を示すのに対
   し,レアアース分子は色純度の高い発光色を示す。

【用語解説】
*1 レアアース分子 … 有機分子とレアアースから構成される有機・無機ハイブリッド材料のこと。本研
  究では,レアアースとしてユーロピウムを用いている。
*2 ナノカーボン … 直径がナノメートル単位の炭素粒子で構成される物質のこと。