研究

柔らかい結晶を使って液体中の二酸化炭素の様子を可視化二酸化炭素分離の高効率化に期待

ポイント
  • 二酸化炭素分離剤であるイオン液体中に二酸化炭素が取り込まれた様子を可視化することに成功。
  • これまで様々な議論があったイオン液体中の二酸化炭素の様子を実験と計算科学により解明。
  • 地球温暖化ガスである二酸化炭素の分離の高効率化に期待。
概要

 北海道大学大学院地球環境科学研究院の野呂真一郎教授,同電子科学研究所の中村貴義教授,同創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の土方優特任准教授,株式会社リガクの佐藤寛泰研究員らの研究グループは,イオン液体*1中の二酸化炭素の様子を柔らかい結晶を使って可視化することに成功しました。
 大気中の二酸化炭素濃度上昇は地球温暖化の原因の一つとして知られており,二酸化炭素を大気中に放出する前に高効率に分離回収する試みが世界中で行われています。回収法の一つであるイオン液体による吸収法はこれまで精力的に研究されてきましたが,規則正しい構造をもたない液体であるがゆえに,イオン液体中に吸収された二酸化炭素の構造を見る・知ることはこれまで困難でした。本研究では,液体の柔らかさと結晶の規則性を兼ね備えた柔らかい結晶中にイオン液体成分を組み込むことで,イオン液体中に吸収された二酸化炭素の状態を可視化することに成功しました。本研究成果は,二酸化炭素分離の高効率化へ向けた材料設計に重要な指針を与えることが期待されます。
 なお,本研究成果は,2020年10月27日(火)公開のCommunications Chemistry誌に掲載されました。
 また,本研究は,文部科学省科学研究費補助金「挑戦的研究(萌芽)」(18K19864),北海道大学「物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム」による支援を受けて行われました。

イオン液体の成分を柔らかい結晶に組み込むことでイオン液体中に吸収された二酸化炭素の様子を可視化

 
【背景】

 大気中の二酸化炭素濃度は年々上昇しており,これが地球温暖化の主要因として問題視されています。更なる温度上昇を防ぐためには,二酸化炭素を生成しない産業社会への転換を試みるとともに,排出される二酸化炭素を大気中に放出される前に分離回収する必要があります。既に二酸化炭素の分離回収は行われていますが,環境問題・資源問題の観点からより高効率に二酸化炭素を分離回収できる技術の開発が急務となっています。イオン液体を用いた吸収法は,二酸化炭素分離法の一つとして精力的に研究されてきました。吸収された二酸化炭素がイオン液体中でどのような状態をとっているかを調べることは材料を改良する上で非常に重要ですが,イオン液体が規則正しい構造をもたない“液体”であるため,吸収された二酸化炭素の状態を直接観測することはこれまで困難でした。

【研究手法・研究成果】

 本研究では,液体の柔らかさと結晶の規則性の両性質をもつ柔らかい結晶に着目し,イオン液体の成分を柔らかい結晶に組み込みました。合成された柔らかい結晶は,液体のように構造を変えながら二酸化炭素を選択的に吸収しました。期待したとおりに二酸化炭素吸収後も規則性を保ち,二酸化炭素を吸収させた状態でX線構造解析に成功しました。その結果,吸収された二酸化炭素はイオン液体のアニオン成分であるビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンの酸素及びフッ素原子と相互作用していることがわかりました(図1)。さらに,実験科学のみならず計算科学を用いることにより静電力と分散力が二酸化炭素とアニオン間を結びつける力として働いていることを明らかにしました。

【今後への期待】

 地球温暖化は地球上の全生物が関わる重要な問題であり,それを解決するためには高効率な二酸化炭素分離回収技術の開発が不可欠です。本研究成果を基に,より高性能なイオン液体を設計・開発することができれば実用化へ向けた検討が加速されることが期待されます。

論文情報

論文名 Understanding the interactions between the bis(trifluoromethylsulfonyl)imide
    anion and absorbed CO2 using X-ray diffraction analysis of a soft crystal
    surrogate(柔らかい結晶代理物のX線回折分析によるビストリフルオロメタンスルホニ
    ルイミドアニオンと吸着二酸化炭素との間の相互作用の理解)
著者名 Xin Zheng1,福原克郎1,土方 優2,Jenny Pirillo2,佐藤寛泰3,高橋仁徳4,野呂真一
    郎1,5,中村貴義41北海道大学大学院環境科学院,2北海道大学創成研究機構化学反応創
    成研究拠点(WPI-ICReDD),3株式会社リガク,4北海道大学電子科学研究所,5北海道
    大学大学院地球環境科学研究院)
雑誌名 Communications Chemistry(Nature姉妹紙)
DOI 10.1038/s42004-020-00390-1
公表日 2020年10月27日(火)(オンライン公開)

お問い合わせ先

北海道大学大学院地球環境科学研究院 教授 野呂真一郎(のろしんいちろう)
 TEL 011-706-2272    FAX 011-706-2272     メール noro[at]ees.hokudai.ac.jp
 URL https://www.ees.hokudai.ac.jp/ems/stuff/noro/index.html

配信元

北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
 TEL 011-706-2610   FAX 011-706-2092   メール kouhou[at]jimu.hokudai.ac.jp

【参考図】

図1.単結晶構造解析で明らかにした柔らかい結晶中におけるイオン液体成分と吸収二酸化炭素の相互作用の様子。イオン液体成分の酸素(赤)及びフッ素原子(金色)と二酸化炭素の炭素原子(灰色)が相互作用している

【用語解説】

*1 イオン液体 … プラスの電荷をもった分子(カチオン)とマイナスの電荷をもった分子(アニオン)からなる常温で液体のイオン性物質のこと。二酸化炭素を選択的に吸収する,一般的な液体よりも蒸発しにくい,イオンが動きやすい,といった特徴をもち,二酸化炭素分離剤以外にも環境負荷の少ない溶剤や電池の電解質として利用されている。