研究

プロペラレアアース分子からの強らせん発光を実現高集積型の円偏光発光体を新規開発

ポイント
  • 高い円偏光回転強度と発光強度の両立に成功。

  • プロペラ型レアアース分子は様々な物質(ガラス,ビニールなど)に塗布可能。

  • 次世代セキュリティインクに応用可能。産業応用に用いることを期待。

概要

 北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),同大学院工学研究院の北川裕一特任講師,長谷川靖哉教授らの研究グループは,強い円偏光発光*1を示すプロペラ型レアアース分子*2の開発に成功しました。
 ここで発現する円偏光発光は通常光(太陽光や蛍光灯など)とは異なるらせん状の回転光であり,次世代ディスプレイやセキュリティ材料への応用が期待されています。この円偏光発光はキラル*3構造を有するタンパク質でも観測されますが,その強度は小さく,産業応用に用いることはこれまで困難でした。今回発表のプロペラ型レアアース分子は高い円偏光回転強度(発光性タンパク質の約1,000倍)と発光強度(従来キラルレアアースの10倍以上)を同時に達成します。このプロペラ型の分子フレキシブル構造は透明な高密度集積を可能にし,次世代ディスプレイやセキュリティインクだけでなく,円偏光情報を駆使する光情報通信に展開が可能となります。
 なお,本研究成果は,2020年8月25日(火)公開のCommunications Chemistry誌(Nature 姉妹誌)に掲載されました。
 また,本研究は,文部科学省科学研究費補助金「基盤研究B」(20H02748, 18H02041),「新学術領域研究(非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学)」(19H04556),「新学術領域研究(ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能)」(20H04653, 18H04497),「新学術領域研究(「新学術領域研究(水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成)」(20H05197)「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の支援のもとで行われました。

      次世代ディスプレイ                   円偏光発光体
(https://www.pexels.com/,https://kage-design.com/)         (本論文のGraphical abstractから引用)

【背景】

 電子産業で使用されている発光体は無機蛍光体が主流でしたが,近年では蛍光色素等の発光分子も注目されています。研究グループは,有機分子とレアアースから構成される有機・無機ハイブリッド材料レアアース分子の開発を行っています。このレアアース分子にキラル分子を導入することで円偏光が右回転(または左回転)に強く偏った発光を創出できることが報告されてきました。しかしながら,その発光強度は非常に弱く,また結晶性が高いためガラスやビニール等の物質に塗布することはできませんでした。

【研究手法】

 本研究では,レアアースにキラル分子及びプロペラ型分子(図1左)の導入を検討しました。それぞれの分子を有機溶媒に分散させ,その溶液をガラス基板上にキャストすることでレアアース分子(図1右)の膜を作成しました。このプロペラ型分子の導入が本研究の鍵となっています。

【研究成果】

 ガラス基板に形成したレアアース分子膜は高い透明性を示し,プロペラ型の分子フレキシブル構造がレアアースの透明な高密度集積を可能にすることが明らかになりました。また,この透明膜は紫外線を照射すると高い円偏光回転強度の発光を示すことがわかりました。その発光効率は従来の高い回転強度を示すレアアース分子と比べて10倍以上高い値となりました。

【今後への期待】

 計算科学・情報科学とのコラボレーション研究により,キラルレアアース分子の機能をさらに高めていくとともに,産学間の連携を強めることで材料応用への実現を目指します。

論文情報

論文名 Chiral lanthanide lumino-glass for a circularly polarized light security device
    (円偏光セキュリティデバイスのためのキラルランタニド発光ガラス)
著者名 北川裕一1,2,和田智志1,MD J. Islam2, 斉田謙一郎3,権 正行4, 田中一生4,
    伏見公志1,前田 理2,3, 長谷川靖哉1,21北海道大学大学院工学研究院,2北海道大学創
    成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),3北海道大学大学院理学研究院,4
    京都大学大学院工学研究科)
雑誌名 Communications Chemistry(シュプリンガー・ネイチャーが発行する化学専門誌)
DOI 10.1038/s42004-020-00366-1
公表日 2020年8月25日(火)(オンライン公開)

特許情報

発明の名称:円偏光発光性希土類錯体 
出願番号:特願2019-12904.
出願人:北海道大学
発明者:北川裕一,和田智志,伏見公志,長谷川靖哉

お問い合わせ先

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)・同大学院工学研究院
教授 長谷川靖哉(はせがわやすちか)
 TEL 011-706-7114   メール hasegaway[at]eng.hokudai.ac.jp
 URL https://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/amc/
特任講師 北川裕一(きたがわゆういち)
 TEL 011-706-6737   メール y-kitagawa[at]eng.hokudai.ac.jp

配信元

北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
 TEL 011-706-2610  FAX 011-706-2092
 メール kouhou[at]jimu.hokudai.ac.jp

【参考図】
図1.レアアースに導入した新型プロペラ分子(左)と計算シミュレーションにより予想した新型レアアース分子の構造  (右,引用:本論文)
【用語解説】

*1 円偏光発光 … キラルな蛍光体を光で励起した際に,左右円偏光の割合が偏った発光を示す。これを円
     偏光発光という。
*2 レアアース分子 … 有機分子とレアアースから構成される有機・無機ハイブリッド材料のこと。 本研
     究では,レアアースとしてユーロピウムを用いている。
*3 キラル … 左右の手のように,その鏡像と重ね合わすことができない性質。