研究

マスクテトラケトンから生成される蛍光金属イオン検出分子

ポリケトンを‘マスク化’して反応性を制御: 金属イオンの検出に応用

ポイント

  • 複雑な互変異性化が起こって扱いが困難なポリケトンにイソピラゾール”マスク”を付けることで反応性を制御
  • マスク化法を使って金属イオンを検出して固体発光が変化する化合物を開発

背景

ポリケトンは自然界にも見られる化合物で、代謝物の生合成原料として広く知られています。しかし、1,3-ジケトン構造を繰り返し単位に持つポリケトンは、複雑な互変異性化によって混合物として存在しているため、人工的に反応性を制御して有用な化学反応に用いることが困難でした(図1)。

図1

研究成果

猪熊准教授らの研究グループは、ポリケトンの中にイソピラゾールと呼ばれる窒素を含む環状ユニットを導入することで、ポリケトンの複雑な互変異性化を制御することに成功しました。イソピラゾールは、2つのイミン官能基を持ちます。イミンとケトンは可逆的に変換ができるため、有機合成上では合成等価体とされています。このように合成上で等価な別の官能基に変換することをマスク化(masking)すると呼びます。ポリケトンの一種であるテトラケトンをイソピラゾールでマスク化すると、考え得る6つの互変異性体の中で、ただ1つの異性体のみが最も安定な化学種として観測されました。

 同グループは、マスク化によって反応性が制御されたテトラケトンに対して修飾反応を施すことで、固体状態で強く発光する金属イオンのセンサーを開発することにも成功しました(図2)。このセンサーは、数マイクログラムの金属塩(亜鉛、ニッケルなど)が含まれる溶液と接触すると、黄緑色の固体発光が即座に変化することで、センサーとしての働きを果たしました。

図2

今後の展開

 イソピラゾールのマスクを施すことで、これまで反応試薬として用いることが難しかったポリケトンの変換反応や機能性材料への展開が期待できます。猪熊グループでは、様々な長さのポリケトン(カルボニルひも)を合成する技術を有しており、今後、多彩な材料開発へと繋がると考えています。

論文情報
Isopyrazole-Masked Tetraketone: Tautomerism and Functionalization for Fluorescent Metal Ligands
Hayato Shirakura, Yumehiro Manabe, Chika Kasai, Yuya Inaba, Makoto Tsurui, Yuichi Kitagawa, Yasuchika Hasegawa, Tomoki Yoneda, Yuki Ide, Yasuhide Inokuma
DOI: 10.1002/ejoc.202100784