ポイント
●フラン、ピロール、チオフェンで構成されたキラルなcalix[3]pyrrole類縁体を発見。
●分子動力学シミュレーションによりチオフェンの環反転がラセミ化の要因であり、環反転を抑制することでキラル分割を達成し、各エナンチオマーの絶対構造を解明。
●酸条件下での環拡大反応によりcalix型化合物として最大サイズの結晶構造として、風車型構造を示すcalix[12]型大環状化合物を創出。
概要
北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)、同大学院工学研究院の猪熊泰英准教授らの研究グループは、キラル特性を有するcalix[3]pyrrole類縁体の合成と歪み誘起環拡大反応によりcalix[12]型大環状化合物の合成を達成しました。
本研究では、フランとカルボニル部位を有する環状化合物から段階的なPaal-Knorr反応などを経て、calix[3]pyrrole類縁体としてフラン、ピロール、チオフェンがそれぞれ1つ構成されているcalix[1]furan[1]pyrrole[1]thiopheneの合成に成功しました。得られた環状化合物は単結晶X線構造解析により部分的なコーン型構造を有しており、溶液状態では芳香環の反転を伴うラセミ化の進行が確認されました。また、分子動力学シミュレーションの結果、チオフェンの反転がラセミ化に対して律速段階となっていることがわかりました。
ピロールのN-メチル化によりラセミ化を抑制することに成功し、キラルカラムを利用することで2つのエナンチオマーが単離可能となり、絶対構造も明らかになりました。キラルなアンモニウム塩の存在下でのエナンチオ選択的なN-メチル化を試みた結果、わずかながらも立体選択性が確認されました(10% ee)。
calix[1]furan[1]pyrrole[1]thiopheneは酸性条件下において環拡大反応が進行し、繰り返し骨格の構成は保持されたままで、芳香環の数がそれぞれ6つ、9つ、12つとなるcalix[6], [9], [12]型の大環状化合物が得られることがわかりました。これまでに構造が明らかになっているcalix型化合物において、calix[12]型の化合物は最も大きい環サイズを有しており、風車型の特徴的な結晶構造を示すことがわかりました。
本研究成果は2023年2月13日(月)、Angewandte Chemie International Edition誌にCommunicationとしてオンライン掲載されました。