研究

プレスリリース 新規開発したゲルを用いて脳の神経組織の再構築に成功将来の脳損傷の新治療法開発への貢献に期待

ポイント

●神経幹細胞を培養可能なゲルの作製に成功。
●マウスの脳内にゲルを埋め込み、その後神経幹細胞を注入することで脳組織を創出。
●将来の脳損傷治療へ繋がる基礎技術となることを期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院腫瘍病理学教室兼北海道大学化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の田中伸哉教授、同大大学院医学研究院谷川 聖客員研究員、同大大学院先端生命科学研究院の龔 剣萍(グン・チェンピン)教授らの研究グループは、ハイドロゲル(以下ゲル)をマウスの脳の欠損部に埋めて、その後神経幹細胞をゲル内に注入することで脳組織を再構築させる技術を開発しました。

近年、再生医療が進んでいますが、頭部の外傷、脳梗塞、脳腫瘍摘出などで脳を大きく損傷した場合、脳組織は自然に再生しません。その原因は脳に存在する細胞は損傷部分を埋めるいわゆる”カサブタ”の役割を果たす細胞の足場を作成することができないこと、そして神経細胞自身が増殖する能力に乏しいことです。その結果損傷した部分では空洞ができてしまい、脳組織にある神経細胞やグリア細胞が移動したり、血管を伸ばしたりすることができなくなってしまいます。そこで、私たちは、この問題を解決するために脳の空洞にゲルを充填して、細胞の足場を作ることで、神経組織を再構築する技術を開発しました。

具体的には、まず、神経系の細胞の元となる神経幹細胞がよく接着して足場にできるゲルを作りました。ゲルの元となる正電荷を持つ単量体と負電荷を持つ単量体を様々な割合で混合して重合させて調べたところ、1:1で等量混合したゲル(C1A1ゲル)に神経幹細胞が接着することがわかりました。このC1A1ゲルをベースに細胞がもぐり込めるような孔を無数に開けた構造C1A1多孔質ゲルを作りました。続いて、脳損傷モデルとしてマウスの脳に直径1 mmの空洞を開けて、この空洞部にC1A1多孔質ゲルを埋め込みました。約2週間で埋めたゲルの中にはまわりの脳組織から血管が延びてきて、さらにマクロファージなどの炎症細胞が移動してきました。血管網が形成された後、ゲル内に神経幹細胞を注入すると、約3週間後には神経細胞やグリア細胞が血管網の中に確認され、ゲルを足場とした神経組織の再構築に成功しました。

なお、本研究成果は、日本時間2023214日(火曜)公開のScientific Reports誌に掲載されました。

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