研究

プレスリリース CO2可視光でβ-アミノ酸を合成する新反応を開発計算科学のサポート基づく環境調和型合成法を実現

ポイント
・酸化還元反応におけるポテンシャル交差点を計算し、これを新反応開発に応用。
・青色LED照射下、光電子移動触媒を使用するのみで、添加剤を加えることなく高収率を実現。
・ウルトラファインバブル発生装置を用いた気液フロー合成によりわずか3分で高収率を実現。

概要

北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の美多 剛教授、前田 理教授らの研究グループは、量子化学計算を活用することで二酸化炭素(CO2)を用いた新しいβ-アミノ酸の合成法を設計し、実際の化学合成によりその合成法を実証しました。さらに、静岡大学グリーン科学技術研究所の間瀬暢之教授の研究グループとの共同研究により、この反応を気液フロー合成へと発展させ、連続的かつ高効率なβ-アミノ酸合成を実現しました。

β-アミノ酸は、医薬品や人工ペプチドの研究において重要な構造単位ですが、カーボンニュートラルを見据えたCO₂を直接原料とする反応の開発は、依然として発展途上にあります。本研究では、光電子移動触媒の存在下、青色LED照射を用いることで、アミノアルケンとCO₂から温和な条件下でβ-アミノ酸誘導体を与える新反応を発見しました。

本反応の開発は、量子化学計算を基盤とした反応設計によって進めました。特に、光電子移動触媒であるイリジウム錯体による酸化・還元過程を計算的に扱うため、原渕 祐特任教授、前田教授らがこれまでに提案した「エネルギーシフト法を活用した電子移動経路に対する解析技術」を用いました。この手法により、通常は高コストとなる電子移動過程を、現実的な計算負荷で扱うことが可能となり、反応機構の定量的な解析に寄与しました。本計算では、基質であるアミノアルケンから生じる中間体のラジカルが、CO2と反応してβ-アミノ酸へと変換される一連の過程を対象としました。中でも、CO2の付加と一電子還元が協奏的に進行するカルボキシル化反応に注目し、このプロセスが生じる電子状態の交差シーム上において最適化計算を行いました。ラジカル状態とアニオン状態という異なるポテンシャルエネルギー曲面が交差する領域(ポテンシャル交差点)を明示的に探索することで、電子移動と化学結合形成が同時に進行し、β-アミノ酸が生成しうることが示唆されました。

この計算結果に基づき光電子移動触媒存在下、青色LED照射により反応を実施したところ、アミノアルケンとCO2からβ-アミノ酸誘導体が得られました。さらに、この合成反応をフロー合成に応用するにあたり、静岡大学・間瀬研究室で開発された「ウルトラファインバブル発生装置」を活用しました。この装置では高圧下で液体中に気体を溶解させ、その圧力を急激に解放することで生成される微細な気泡(粒径1 μm未満)により、CO2の供給効率が大幅に向上しました。この技術を用いた気液フロー合成では、反応時間約3分で高収率を実現しており、持続可能な連続合成法として高い応用性が期待されます。

本研究成果は、2025年7月4日(金)公開のACS Catalysis誌(オープンアクセス)にオンライン掲載されました。

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