研究

プレスリリース水を直接使った立体選択的なアルコール合成に世界初成功触媒の力で石油化学原料と水から医薬品香料の精密合成が可能に

ポイント
  • 石油化学原料+水だけで、分子の「手の向き」を制御したアルコール合成に世界初成功。
  • 極低温ほどうまくいく逆転の発想で、原理的に不可能とされた立体制御を実現。
  • 立体制御の鍵となる触媒とフッ素系溶媒の水素結合ネットワークを結晶・計算で解明。

概要

 北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の辻 信弥特任准教授、リスト・ベンジャミン特任教授らの研究グループは、石油化学原料であるアルケンに水を直接加えてアルコールを合成する際、分子の「右手型・左手型」(キラリティー)まで精密に制御することに世界で初めて成功しました。「石油原料と水を混ぜて立体選択的にアルコールを作る」と言うと一見荒唐無稽に聞こえますが、これが今回の研究の本質です。石油を精製すると大量に得られるアルケンは、医薬品・香料など付加価値の高い化合物への変換も期待される豊富な資源です。その変換先であるアルコールはキラリティーによって薬効や安全性が大きく変わるため、「手の向き」の制御が製造上の重要課題となっています。アルケンに水を加えてアルコールを合成する反応自体は古くから知られていましたが、反応が熱力学的に元に戻りやすいという根本的な制約から、その制御は極めて難しく、特にキラリティーの精密制御は長年「原理的に不可能」と考えられてきました。
 今回の研究では、「冷やすほどうまくいく」という逆転の発想が突破口となりました。二つの分子が一つに合体するこの反応では、温度を下げることで逆反応への傾向が弱まり、反応が安定して進むようになります。極低温条件下では反応の逆行によるラセミ化も熱力学的に抑制され、強い酸性と精密な立体構造を持つ「IDPi触媒」とフッ素系溶媒の組み合わせにより、高い収率と高いエナンチオ選択性(最大97.5 : 2.5)を同時に達成しました。立体制御の鍵となる触媒とフッ素系溶媒の水素結合ネットワークは、結晶構造解析と計算化学によって解明されました。さらに、天然物合成への応用や、ラセミ体アルコールの一工程での変換(脱ラセミ化)にも成功しており、創薬・香料・機能性材料など幅広い産業分野への貢献が期待されます。なお、本研究成果は、2026年6月2日(火)公開のJournal of the American Chemical Societyにオンライン掲載されました。

不斉有機酸触媒によるアルケンの不斉水和反応

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